大人になったのだから、もう親の言葉なんて気にしなくていい。
頭ではそう思っているのに、親から何か言われると、なぜか心がざわつく。
「そんな仕事で大丈夫なの?」
「もっとちゃんとしたほうがいいんじゃない?」
「あなたは昔からそういうところがあるよね」
他の人から同じことを言われても聞き流せるのに、親のひと言だけはいつまでも頭に残ってしまう。
あるいは、何年も前に言われた言葉を、ふとした瞬間に思い出すこともあるかもしれません。
それは、あなたがいつまでも子どもだからとは限りません。
親や養育者は、自分自身や人との関わり方を学んでいく早い時期から、身近にいることの多い存在です。
そのため、大人になったあとも、その人から受け取った言葉や価値観が心に残っていることがあります。
今回は、大人になっても親の言葉が気になってしまう理由と、親の価値観に振り回されすぎず、自分らしく生きていくための考え方について見ていきましょう。
大人になっても親の言葉が気になるのはおかしい?
「もう大人なのに、どうして親の言葉にこんなに傷つくんだろう」
そう思って、自分を責めてしまう人もいるかもしれません。
けれど、大人になったからといって、これまで受けてきた影響がすべてなくなるわけではありません。
私たちは成長する過程で、家族だけでなく、友人や先生、学校、社会など、さまざまな人や環境から影響を受けながら、自分なりの価値観や自己イメージをつくっていきます。
そのなかでも、幼いころから身近にいた親や養育者との関係は、自分自身について考えるときの基準のひとつになることがあります。
だからこそ、大人になってからも親の言葉だけは妙に気になったり、心が揺れたりすることがあるのです。
なぜ親の言葉は大人になっても心に残るの?
親や養育者は幼いころから身近にいる存在だから
子どもにとって、親や養育者は生活を支えてくれる大きな存在です。
食事や住まいといった生活面だけではなく、安心感や人との関わり方を学ぶうえでも、身近な大人との関係は大切な役割を持っています。
そのため、
「よく頑張ったね」
「あなたなら大丈夫」
といった言葉に励まされることもあれば、
「あなたはダメね」
「どうせできないでしょう」
といった言葉が強く心に残ることもあります。
もちろん、すべての人が同じように影響を受けるわけではありません。
本人の性格や気質、その後に出会った人、経験してきたことなどによっても変わります。
それでも、長い時間をともに過ごしてきた相手だからこそ、親の言葉に特別な重みを感じることがあるのです。
繰り返し聞いた言葉が自分を評価する基準になることがある
「あなたは飽きっぽいから」
「もっと頑張らないとダメ」
「人に迷惑をかけてはいけない」
「そんなこともできないの?」
子どものころから繰り返し聞いてきた言葉が、自分自身を評価するときの基準のひとつになることがあります。
すると、大人になって親がそばにいなくても、
「私には無理かもしれない」
「もっとちゃんとしなきゃ」
「失敗したら恥ずかしい」
と、自分自身に厳しい言葉を向けてしまうことがあります。
そんなときは、一度立ち止まってみてもいいかもしれません。
「これは、本当に私が思っていることだろうか?」
「いつから、そう思うようになったんだろう?」
自分のなかにある考えを丁寧に見つめてみることで、自分自身の価値観と、これまで周囲から受け取ってきた価値観を少しずつ分けて考えられるようになります。
「認めてもらいたい」という気持ちが残っていることがある
大人になっても、
「親に認めてもらいたい」
「自分の選択をわかってほしい」
と思うことがあります。
たとえば、自分では納得して選んだ仕事なのに、
「そんな仕事、いつまで続けるの?」
と言われた途端、不安になってしまう。
そのとき苦しいのは、仕事そのものに迷っているからではなく、「自分の選択を認めてもらえなかった」と感じたからかもしれません。
大切な人に理解してもらいたい、認めてもらいたいと思うこと自体は、不自然なことではありません。
だから、「こんな年齢になっても親に認めてもらいたいなんて」と、自分を責める必要はないでしょう。
今の言葉が過去の似た経験を思い出させることがある
親から何気なく言われたひと言に、自分でも驚くほど腹が立ったり、悲しくなったりすることがあります。
そんなときは、目の前の言葉だけではなく、過去の似た経験を思い出していることもあります。
「昔から何をしても否定されている気がした」
「兄弟と比べられるのが嫌だった」
「本当はもっと話を聞いてほしかった」
現在の出来事と過去の経験が自分のなかで重なることで、感情が大きく動くこともあるのです。
そんなとき、
「どうしてこんなに嫌だったんだろう」
と、自分の気持ちを少し丁寧に見てみてください。
怒りの奥に、
「悲しかった」
「わかってほしかった」
「認めてほしかった」
という別の気持ちが隠れていることもあります。
親の言葉と自分の本音を分けて考えてみる
親の言葉が気になるからといって、親を嫌いになる必要はありません。
言われたことすべてに反対する必要もありません。
大切なのは、親の考えと自分の考えをいったん分けてみることです。
「親はそう思っている」と言い換えてみる
たとえば親から、
「そんな生き方では将来困るよ」
と言われたとします。
その言葉をそのまま受け取ると、
「私は間違った生き方をしている」
と感じてしまうかもしれません。
そこで、
「親は、私の生き方では将来困ると思っている」
と言い換えてみます。
ほんの少しの違いですが、意味は変わります。
「私は間違っている」と考えると、親の意見が自分にとっての事実になります。
一方で「親はそう思っている」と捉えれば、それはひとつの意見として見ることができます。
親の考えが正しいこともあるでしょう。
参考になることもあるでしょう。
でも、親の言葉だからといって、すべてが自分にとっての正解とは限りません。
聞いたうえで、自分に必要なものを選んでもいいのです。
「私はどうしたい?」と自分に聞いてみる
親の意見をいったん横に置いたら、自分自身にも聞いてみます。
「私はどうしたい?」
「私は何を大切にしたい?」
「誰にも反対されないとしたら、私は何を選びたい?」
すぐに答えが出なくても構いません。
これまで周囲の期待を優先することが多かった人ほど、自分が何を望んでいるのかわからなくなることがあります。
そんなときは、人生を左右するような大きな決断から考える必要はありません。
今日何を食べたいのか。
休日をどう過ごしたいのか。
どんな服を着たいのか。
誰といると心地よいのか。
小さなことから「私はどうしたい?」と問いかけてみる。
そんな日々の選択も、自分自身の感覚を知っていくきっかけになります。
親の言葉がつらいときにできること
その場ですぐ答えを出さなくてもいい
親から何か言われると、
「わかってもらわなきゃ」
「反論しなきゃ」
と思うことがあります。
けれど、その場ですぐに結論を出す必要はありません。
「そういう考え方もあるね」
「少し考えてみる」
「私は今のところこう考えているよ」
と、いったん会話を終える方法もあります。
親と意見が違うことと、親そのものを否定することは別です。
親と違う人生を選ぶことも、必ずしも親を拒絶することではありません。
すべてを話さなくてもいい
「親子なんだから何でも話したほうがいい」
と思っている人もいるかもしれません。
けれど、親子であっても、どこまで話すのかを自分で決めることはできます。
仕事について話すたびに否定されてつらいなら、仕事の話を少なくする。
恋愛について口を出されるのが苦しいなら、詳しく相談しない。
自分にとって大切な決断なら、決めてから伝える。
距離を取ることは、必ずしも関係を断つことではありません。
お互いが無理なく関われる距離を探すことも、大人になった親子関係のひとつの形です。
傷ついた自分の気持ちまで否定しない
「もう大人なのに、こんなことで傷つくなんて」
そう思って、自分の感情まで否定してしまうことがあります。
でも、傷ついたのであれば、
「私はあの言葉が悲しかったんだな」
と、まず自分の気持ちを認めてみてもいいでしょう。
「認めてもらいたかった」
「味方になってほしかった」
「もう少し話を聞いてほしかった」
そうやって自分の感情に気づくことと、親を悪者にすることは同じではありません。
親には親なりの事情や価値観があったのかもしれません。
それでも、自分がどう感じたのかまで否定する必要はないのです。
親を理解することと、親の価値観に従うことは違う
大人になるにつれて、親のことを「親」という役割だけではなく、一人の人間として見られるようになることがあります。
親にも不安があり、育ってきた環境があり、その人なりの価値観があります。
「安定した仕事に就きなさい」
という言葉も、子どもに苦労してほしくないという心配から出ているのかもしれません。
「結婚したほうが幸せだよ」
という言葉も、その人自身がそう信じて生きてきたからなのかもしれません。
背景を考えることで、「どうしてそんなことを言うのか」が以前より理解できることもあります。
ただし、理解することと、従うことは別です。
「そう考える理由はわかる。でも、私は違う道を選びたい」
そう思ってもいいのです。
親には親の人生があります。
そして、自分には自分の人生があります。
親の言葉がまったく気にならなくなる必要はない
「親の言葉なんて何を言われても平気」
そんな自分になることだけが、自立ではありません。
大切な人だからこそ、言われたことが気になる日もあるでしょう。
わかってほしかったのに理解してもらえず、傷つくこともあるかもしれません。
目指したいのは、何を言われても何も感じなくなることではなく、
親の言葉に心が揺れたとしても、最後には自分の気持ちに戻ってこられること。
「お母さんはそう思うんだね」
「お父さんはそれが心配なんだね」
そう受け止めながら、
「じゃあ、私はどうしたい?」
と自分に問いかける。
親の意見を聞くこともできる。
参考にすることもできる。
そして、自分には合わないと思えば、違う選択をすることもできる。
そんな距離感を少しずつ見つけていくことが、自分らしく生きることにつながっていくのではないでしょうか。
まとめ|親の言葉から、自分の言葉へ
大人になっても親の言葉が気になることはあります。
幼いころから身近にいた親や養育者との関係や、そこで繰り返し受け取った言葉が、自分自身の考え方や自己評価と関連することもあります。
ただ、今の自分をつくっているものが、すべて親との関係だけで決まるわけではありません。
これまで出会ってきた人。
経験してきたこと。
そして、これから自分で選んでいくこと。
私たちはさまざまなものから影響を受けながら、少しずつ自分自身の価値観をつくり直していくことができます。
だから、親の言葉が心に残っていることに気づいたときは、自分に問いかけてみてください。
「これは誰の価値観だろう?」
「私は本当はどう思っている?」
「私は、どうしたい?」
親から受け取ったものを、全部捨てなくてもいい。
全部受け入れなくてもいい。
大切にしたいものは残して、もう自分には必要ないと思うものは少しずつ手放していく。
そうやって、自分にとって大切なものをひとつずつ選び直していく。
誰かの言葉ではなく、自分の言葉で自分の人生を選んでいく。
それもまた、大人になった私たちができる、自分らしい生き方のひとつなのだと思います。
